薬剤師の転職お役立ちコラム COLUMN

2022/12/16

学校薬剤師の役割と仕事内容|報酬相場・求められるスキルも紹介

薬剤師として転職を考えている方の中には、「学校薬剤師」という職業を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。

調剤薬局やドラッグストアなどに勤務する薬剤師と比べると、学校薬剤師として働いている方は少ないという現状があります。そのため、学校薬剤師に関する情報も少なく、学校薬剤師の仕事がどのようなものか分からない方も珍しくありません。

当記事では、学校薬剤師の仕事内容や役割について解説します。報酬の相場や求められるスキル、学校薬剤師になるための方法も併せて確認し、お仕事探しの参考にしてください。

1.学校薬剤師とは?

学校薬剤師とは、大学を除く以下のような学校に勤務する薬剤師のことを指しています。

  • 幼稚園
  • 小学校
  • 中学校
  • 義務教育学校
  • 高等学校
  • 中等教育学校
  • 特別支援学校
  • 高等専門学校
  • 認定こども園
  • 専修学校

これらの学校は、学校保健安全法の第23条により、学校薬剤師を配置することが義務付けられています。

1-1.学校薬剤師が導入された背景

学校薬剤師制度は、世界でも類を見ない日本独自の制度です。学校薬剤師の配置は「学校保健安全法」によって以下のように定められています。

(学校医、学校歯科医及び学校薬剤師)
第二十三条 学校には、学校医を置くものとする。

  • 2 大学以外の学校には、学校歯科医及び学校薬剤師を置くものとする。
  • 3 学校医、学校歯科医及び学校薬剤師は、それぞれ医師、歯科医師又は薬剤師のうちから、任命し、又は委嘱する。
  • 4 学校医、学校歯科医及び学校薬剤師は、学校における保健管理に関する専門的事項に関し、技術及び指導に従事する。
  • 5 学校医、学校歯科医及び学校薬剤師の職務執行の準則は、文部科学省令で定める。

引用:e-GOV 法令検索「昭和三十三年法律第五十六号 学校保健安全法」/引用日2022/11/24

学校薬剤師導入は、医薬品管理体制の不備によって起こった事故がきっかけで全国に普及した背景があります。

1930年、小樽市の小学校で風邪をひいた女子児童に「アスピリン」を服用させるつもりが、誤って毒薬の「塩化第二水銀」を服用させ、児童が亡くなってしまうという事故が起きました。

この痛ましい事故を受け、学校に薬の専門家を置くべきという声が高まり、事故の翌年1931年に小樽市が学校薬剤師を委嘱しました。その後、学校薬剤師配置が全国に広まり、1958年の学校保健法が制定され、学校薬剤師の配置が義務付けられます。

出典:公益社団法人 日本薬剤師会「学校薬剤師とは」

2009年(平成21年)には、学校保健安全法及び学校保健安全法施行規則が新しく施行され、学校薬剤師の職務内容について以下のように定められました。

  • 学校保健計画や学校保健安全計画の立案への参与
  • 学校環境衛生基準に基づく環境衛生検査、学校環境衛生の維持及び改善に関する指導・助言
  • 「健康相談」及び「保健指導」への従事、児童生徒等の健康教育 に関する協力
  • 学校で保有する医薬品、薬品及び毒劇物等の管理
  • 学校給食衛生管理基準に基づく給食衛生の検査と指導・助言

出典:e-GOV 法令検索「昭和三十三年文部省令第十八号 学校保健安全法施行規則」

学校薬剤師は学校の薬剤の管理だけでなく、学校保健活動、薬物乱用防止、教室内の採光やプール水の衛生状態の検査など学校環境を最適に保つ幅広い業務にも携わっています。

2.学校薬剤師の役割

学校薬剤師が全国の学校に配置され始めた当初、薬剤師は学校薬事衛生(薬品類の使用・保管等)に関する業務を担っていました。

しかし、1958年公布の学校保健法では、学校環境衛生の維持管理に関する指導・助言者としての職務も義務付けられました。そして、2009年に施行された学校保健安全法及び学校保健安全法施行規則では、学校環境衛生に加えて、健康相談、保健指導にも従事するよう求められています。

ここからは、学校薬剤師の役割にはどのようなものがあるのか、具体的に説明します。

2-1.熱中症の防止

2021年1月に千葉県学校薬剤師会で開催された研修会の報告書によると、学校管理下における年間の熱中症の発生件数は、小学校で約500件、中学校で約2,000件、高等学校で約2,500件です。

出典:千葉県学校薬剤師会コーナー「地域学校薬剤師研修会報告」

熱中症は、気温がさほど高くなくても、湿度が高く風が弱い日には起こりやすくなります。まだ、体が暑さに慣れていない5月末から6月初めにも、熱中症の報告が増えます。

熱中症の予防対策や注意喚起、啓発活動をすることも学校薬剤師の役割の1つです。

出典:公益社団法人 日本薬剤師会「こどもたちの健康」

2-2.医薬品の管理

学校保健安全法施行規則では、学校薬剤師の職務として以下のように定められています。

(学校薬剤師の職務執行の準則)
第二十四条

六 学校において使用する医薬品、毒物、劇物並びに保健管理に必要な用具及び材料の管理に関し必要な指導及び助言を行い、及びこれらのものについて必要に応じ試験、検査又は鑑定を行うこと。

引用:e-GOV 法令検索「昭和三十三年文部省令第十八号 学校保健安全法施行規則/引用日2022/11/24

学校には、理科の実験やプールの衛生管理に使用するさまざまな薬品や、児童が使用する一般医薬品があります。

さらに、児童が使用する医療用医薬品を預かっている学校が多いのも現状です。アドレナリン自己注射薬(エピペン)や熱けいれん時坐薬など、緊急時に使用する薬の管理を学校が任されているケースが増えています。

学校と連携し適切な医薬品管理を行うことが学校薬剤師には求められています。

出典:公益社団法人 日本薬剤師会「こどもたちの健康」

2-3.アレルギーへの対応

学校内において、どれだけ注意をしていても給食時の誤食による食物アレルギーやアナフィラキシー症状が発症してしまう可能性はゼロではありません。

アナフィラキシーの進行は急速であるため、児童が発症した場合、迅速かつ適切な対応が求められます。食物アレルギー等によりアナフィラキシーを起こす危険性が高い児童に対してはエピペンが処方されています。

エピペンはショック症状(血圧低下や意識障害)を防ぐための補助治療剤です。速やかに注射することで、アナフィラキシー症状の進行を一時的に緩和させられます。本人もしくは保護者が注射する目的で作られており、児童本人が携帯・管理することが望ましいとされています。

しかし、症状が発症した際に、児童が自己注射できない場合に教職員が代わってエピペンを投与することもあるでしょう。不測の事態に備え、正しい知識と対処法を学ぶ研修会も実施されています。

児童が個人で管理することが困難な場合や、エピペンを2本以上処方されている場合などでは、学校が管理します。学校により管理方法が異なるため、学校薬剤師には学校の実情を加味した適切な助言が求められています。

出典:公益社団法人 日本薬剤師会「こどもたちの健康」

3.学校薬剤師の仕事内容

学校医や学校歯科医は、児童・生徒の定期的な健康診断などで見かける機会もありますが、学校薬剤師は学校でどのような業務を行っているのでしょうか。ここでは、学校薬剤師の主な仕事内容を紹介します。

学校薬剤師の主な仕事は、教室内や学校内における環境衛生検査です。各学校は、学校保健安全法第5条に基づき、一年間の衛生活動計画である「学校保健計画」を保健主事教諭を中心に作成しています。

この学校保健計画に従って、次の衛生環境の検査や教育を行うことが、学校薬剤師の職務です。

①環境検査・衛生検査

主な検査 検査の概要
プール水や水道水・飲料水の水質検査
  • 水泳プールの水の水質や、残留塩素の濃度が適正範囲にあるか確認する
  • 大腸菌などの細菌検査を行い、汚染がないか確認する
  • 消毒を行う設備に衛生上の問題がないか確認する
教室内の照度検査 照度計で教室内の照度(照明の明るさ)を計測し、照明環境が基準値の範囲内であることを確認する
教室内の空気検査
  • 教室内の温度・湿度・二酸化炭素濃度などの値を測定する
  • トルエンやホルムアルデヒドといった有害物質が、含まれていないか調査する
教室内の騒音検査 教室内で教室外から聞こえてくる音が騒音レベルの大きさではないか、騒音計で騒音環境を確認する

②給食や薬品の検査・管理

主な検査 検査の概要
給食施設の検査
  • 給食施設(給食室・給食センター・食堂など)の調理器具や食材の保管場所、食器など、給食環境の衛生状態をチェックする
  • 給食施設の水道水に異常がないか確認する
保健室や理科室の薬品に関わる検査・管理
  • 保健室にある消毒薬などの薬品類や理科室の実験用薬品・劇物について管理状況を確認し、適切な薬品管理ができているか安全管理を行う
  • 不要な薬品があれば、管理者(担当者)に処分する方法を助言・指導する

③薬に関する授業

授業の対象 授業の概要
児童・生徒
  • 熱中症や、インフルエンザといった感染症などの身近な病気・症状についての保健指導
  • 危険ドラッグやシンナーなどの薬物乱用や、たばこ・アルコールの過剰摂取が体に及ぼす影響に関する啓発活動
  • 上記のような保健教育や薬教育を、専門家として対象児童・生徒の学年に合わせて行う
教職員 生徒がアナフィラキシーショックを起こした際に、エピペンを使用する方法などの講習を行う

環境衛生や給食・薬品の定期検査は検査項目に従い、報告書に結果をまとめて学校に報告します。また、必要に応じて学校に改善のための指導助言を行うことも、学校薬剤師の業務内容の1つです。

このように、学校薬剤師の仕事は多岐にわたります。病院や調剤薬局のような調剤・投薬は行いませんが、児童・生徒の健康を支える「縁の下の力持ち」のような存在と言えるでしょう。

4.学校薬剤師の報酬相場

学校薬剤師の報酬は地域によって異なりますが、年収10万~20万円程度のところがほとんどです。多くの場合、学校薬剤師は年に数回、多くとも月に1回ペースでの勤務であり、報酬は高いとは言えません。そのため、一般的に学校薬剤師としての仕事は、本業ではなく副業として行うこととなります。

学校薬剤師の収入はそれほど高くありません。しかし、実働時間は長くないため、効率的に副収入を得ることができます。

学校薬剤師として得た収入の金額によっては、自分で確定申告をする必要があります。調剤薬局などで正社員として働いている方の場合、本業での給与収入の他に学校薬剤師としての収入(雑所得)を得ることとなるため、学校薬剤師としての収入である雑所得が一年間に20万円を超える場合は、必ず確定申告を行いましょう

5.学校薬剤師に求められるスキルは?

薬剤師の国家試験に合格し資格を有していれば、誰でも学校薬剤師の求人に応募することができます。

しかし、学校薬剤師は調剤薬局や病院薬剤師とは異なり、環境衛生への関与が主体となります。医薬品に関する知識だけではなく衛生化学の知識は必須です。

また、学校は教育の場であるため、学校教育に対する理解や、児童・生徒・先生への教育スキル、学校の保健安全を良好に保つためのマネジメントスキルも必要です。

  • 教育にふさわしい人間性であること
  • 学校教育に理解があること
  • 学校薬剤師に必要な知識を自己研鑚できること

以上のような素質が学校薬剤師には求められます。子ども達の発育・発達の助けとなり、適切な指導・助言ができる人間性が重要です。

しかし、人間性は一朝一夕で身に付くものではありません。薬剤師としての知識だけでなく、一般的な社会人としての経験や教養も求められるため、薬剤師免許を取得した直後に、新卒で学校薬剤師になることは難しいでしょう。

学校薬剤師に興味がある方は、無理に近道をしようとせず、まずは薬剤師としてのキャリア・経験を積み上げていくことをおすすめします。医薬品に関する知識はもちろん、病気やケガ、公衆衛生などの知識を身に付けると同時に、教育やマネジメントスキルの向上を図りましょう。

6.学校薬剤師になるための方法

学校薬剤師の求人は、広く出回っているわけではありません。欠員状態も分かりにくいため、学校薬剤師として働きたい場合は、学校薬剤師になるためのツテを作ることが重要です。

また、ツテを作る以外にも、以下の3つの方法があります。

〇地域への貢献度が高い薬局を選んで勤務する

学校薬剤師の求人の多くは、薬剤師のコミュニティ内で出回ります。地域への貢献度が高い薬局では、地域にある学校での薬剤師求人情報をいち早く入手することができます。また、すでに学校薬剤師の仕事を兼任している薬剤師が在籍している薬局は、学校薬剤師の仕事への理解が深く、学校薬剤師の求人を出していることも珍しくありません。

〇薬局の経営者になる

地域貢献度が高い職場では、学校薬剤師の副業を認めているところもありますが、中には従業員が副業を持つことを嫌がる経営者もいます。しかし、自分が個人薬局の経営者になれば、自由に副業を持つことが可能です。地域の薬剤師会とのつながりを大切にすると、学校薬剤師の求人情報も得やすくなるでしょう。

〇学校薬剤師が足りていない学校を探す

学校薬剤師が足りていない学校を探すことは、最もシンプルな学校薬剤師求人の探し方です。私立学校の場合、各学校法人が求人を出すケースもあるため、地域の学校のホームページなどを定期的にチェックすることもおすすめです。

上記のように、学校薬剤師への道はいくつかあります。しかし、地域貢献度の高い薬局や学校薬剤師の仕事への理解が深い職場や、薬局経営者となる方法を個人で探すことは難しいものです。

学校薬剤師になるための道を自分で見つけられない場合は、薬剤師専門の就職・転職エージェントを活用しましょう。薬剤師専門のエージェントを活用すると、早期に学校薬剤師として活躍することができます。

また、学校薬剤師会への入会もおすすめです。都道府県学校薬剤師会は全国の地区ごとに事務局があります。学校薬剤師会に入会するメリットには以下のようなものが挙げられます。

  • 勉強会や研修に参加できる
  • 検査機器の貸出がある
  • 他の学校薬剤師とのつながりができる

学校薬剤師には知識のアップデートと自己研鑚が欠かせません。勉強会や研修の場があることはとても大きな利点です。他の学校薬剤師とのつながりも生まれるため、モチベーションが上がり、情報収集や疑問点を聞けるなどのメリットもあります。

また、学校薬剤師の職務の1つに環境検査がありますが、検査機器は高価で管理が難しいため学校が所持しているケースは極めて稀です。薬剤師会に入会していると、機器の貸出を受けられる場合があります。

子どもたちが安心できる学校生活をサポートするため、ぜひ学校薬剤師会への入会をご検討ください。

まとめ

学校薬剤師の仕事は、学校の環境衛生や給食・薬品などの検査・管理、薬に関する授業などが挙げられます。

学校薬剤師の年収は10~20万円程度です。そのため、薬剤師としてある程度のキャリアを積んだ後に、チャレンジすることをおすすめします。

学校薬剤師になるためには、薬剤師会とのつながりを大切にすることが重要です。薬剤師専門の就職・転職サイトを上手に活用し、地域貢献度の高い薬局や、学校薬剤師の仕事に理解がある職場で働きましょう。

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