薬剤師の転職お役立ちコラム COLUMN

2022/10/03

疑義照会とは?薬剤師が疑義照会をスムーズに進める方法

保険薬局などで薬剤師として働き始めて日が浅い方の中には、疑義照会にうまく対処できず、どのように行うとよいか悩んでいる方もいるでしょう。疑義照会は薬剤師にとって重要な業務であるため、苦手意識を払拭し、問題なく対応できることが望まれます。

この記事では、疑義照会の概要や必要性、疑義照会をスムーズに進めるためのポイントについて解説します。疑義照会を行う上での注意点や疑義照会の記録内容の書き方も確認し、疑義照会を円滑に進められる薬局薬剤師を目指しましょう。

1.疑義照会とは?

疑義照会とは、処方箋の記載内容に不明点や疑問点があった場合に、処方箋を出した医師(処方医)や処方箋を受け取った患者に対し、処方箋の内容を確認する業務です。薬局などで調剤業務を行う薬剤師の重要な業務の1つであり、薬剤師法24条に次のように定められています。

■薬剤師法24条:処方箋中の疑義

薬剤師は、処方箋中に疑わしい点があるときは、その処方箋を交付した医師、歯科医師又は獣医師に問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ、これによって調剤してはならない。

引用:e-Gov法令検索「薬剤師法」

薬剤師が行う疑義照会は「形式的疑義照会」と「薬学的疑義照会」の2つに大別できます。

ここからは、2種類の疑義照会の内容について解説するため、それぞれの疑義照会でチェックすべき点も確認し、疑義照会の基本を押さえましょう。

1-1.形式的疑義照会:処方箋の記載不備を確認する

形式的疑義照会とは、薬剤師が正しく調剤するために、処方箋に記載された内容に不備がないか確認することです。以下について確認し、不備や不明点・疑問点があれば、処方箋を発行した医師や歯科医師、獣医師に対して疑義照会を行う必要があります。

■形式的疑義照会のチェックリスト

  • □処方箋に記載すべき必要事項(記載項目・規格・用法など)が記入されているか
  • □処方箋が正規ルートで発行されたものか(カラーコピーなどで偽造されていないか)
  • □名称変更や販売中止となった医薬品はないか
  • □処方制限や投薬制限を超過していないか

1-2.薬学的疑義照会:投薬しても問題ないか確認する

薬学的疑義照会とは、薬学の専門家として処方箋の内容を確認し、薬学的視点から見て投薬しても問題がないかどうか患者に確認することです。次のようなチェックをもとに患者に聞き取りを行い、疑問点や不明点、確認すべき点などが生じた場合には、処方箋を発行した医師や歯科医師、獣医師に問い合わせましょう。

■薬学的疑義照会のチェックリスト

  • □患者に副作用歴や薬物アレルギーなどのアレルギーがないか
  • □薬剤服用歴(投薬履歴)上、今回処方された医薬品を使用してもよいか(重複投与や併用薬との飲み合わせ・併用禁忌といった問題はないか)
  • □禁忌または慎重投与となっている症例ではないか
  • □用法や用量は適切か
  • □患者に必要な薬剤が処方されているか

2.疑義照会はどのくらい発生している?

実際には、どのくらいの頻度で疑義照会が発生しているのでしょうか。

日本薬剤師会が2016年に公表した2015年度の調査報告書によると、処方せん枚数ベースで算出される疑義照会率は2.56%、件数ベースの疑義照会率は2.74%でした。2015年度の応需処方せん総枚数は全国で297,086枚あり、うち8,136枚(件数ベース)が疑義照会を行われたことになります。疑義照会総件数の内訳は、下記の通りです。

応需処方せん総枚数 297,086枚
  形式的疑義総件数 薬学的疑義総件数
枚数 1,782枚 6,354枚

また、薬学的疑義照会が行われた6,354枚中4,758枚(74.88%)が実際に処方を変更されています。

出典:公益社団法人 日本薬剤師会「平成27年度全国薬局 疑義照会調査報告書」

2-1.疑義を発見するタイミングは?

下記は、日本薬剤師会の疑義照会調査結果による、疑義を発見した経緯の統計です。
※複数回答あり:処方せん枚数ベース(7,607枚)で割合を算出

疑義発見の経緯 件数 割合(%)
処方せんの内容により 4,269 56.1
薬歴の内容により 1,110 14.6
お薬手帳の内容により 326 4.3
患者・家族等へのインタビュー(服薬指導)により 3,226 42.4
その他 124 1.6

引用:公益社団法人 日本薬剤師会「平成27年度全国薬局 疑義照会調査報告書」

調査結果を薬局薬剤師の仕事の流れに当てはめて、疑義が発見されるタイミングを詳しく解説します。

(1)受付 処方せん・お薬手帳の受け取り
患者から処方せんとお薬手帳を預かり、質問票にアレルギー歴の有無・副作用歴・併用薬・既往歴などを記入してもらいます。
(2)初期鑑査・疑義照会 処方せんの確認
処方せんとお薬手帳・質問票の記載内容を照らし合わせ、内容に間違いがないか確認します。最初の確認であり、もっとも疑義が発見されるタイミングです。
(3)データ入力 電子薬歴簿へ処方せんの内容入力
(4)薬剤の調剤 薬の準備
(5)最終鑑査 確認作業
調剤の担当薬剤師とは別の薬剤師による確認が行われ、再度処方せんに誤りがないか照らし合わせます。ここも、疑義が発見されやすいタイミングです。
(6)説明・確認 引き渡し
薬歴をもとに患者や家族へ病状などの聞き取りを行いながら、薬の服用方法を説明し不明点がないか確認します。ここでは書面からは把握できなかった疑義を発見するケースが珍しくありません。
(7)薬歴の作成 記録
(8)サポート 服薬期間中のフォロー
服薬期間中のフォローも担当する場合、副作用などの発覚につながるケースもあります。

3.疑義照会の必要性

薬剤師は、指定された薬剤を正しく調剤して渡すだけの存在ではありません。疑義照会を行うことで医薬品による患者の健康被害を防いだり、医療費を削減したりといった目的からも、薬剤師は必要とされています。疑義照会は法律で薬剤師の義務として定められるほど、重要な業務です。

ここでは、なぜ疑義照会が必要とされるのか、その重要性を解説します。

3-1.患者の健康被害を防ぐため

薬剤師の行う疑義照会は、患者を薬剤の副作用などから守る上で欠かせない業務です。日本薬剤師会が公表した2015年度の疑義照会発生率は2.56%でした。これは処方せん約39枚中1枚に相当し、薬学的疑義照会されたうちの74.88%は実際に処方内容が変更されています。

さらに、薬剤師の疑義照会により重篤な副作用が回避できた事例は、薬学的疑義照会の5.1%にも上ります。調査が行われた2015年度には1年間で7億9,000万枚近い処方せんが発行されました。この数字から概算すると、薬剤師が疑義照会を行った結果、年間100万件以上の重篤な副作用リスクが回避されたことになります。

処方元の担当医師がどれほど優秀で患者思いでも、常に完璧な処方を行うことは難しいでしょう。医師の医療行為に薬学的観点から二重三重のチェックを入れられる薬剤師たちの役割は、患者の安全性を確保するために非常に重要です。

出典:公益社団法人 日本薬剤師会「平成27年度全国薬局 疑義照会調査報告書」

3-2.医療費を削減するため

薬剤師が疑義照会を行うことによる処方せんの訂正は、患者を健康被害から守れるだけではありません。疑義照会は、薬剤費・医療費削減といった面でもメリットの大きな有用性の高い業務です。1年間に発行された処方せんと薬学的疑義照会件数などの数値をもとに概算した場合、疑義照会の結果削減された年間の薬剤費は約103億円に上ると推定されています。

また、疑義照会の結果として重篤な副作用を回避できた327件の事例をもとに、副作用重篤化確率を6.7%と仮定して試算された、医療費の節減額は推定約133億円です。薬剤費103億円と医療費133億円を合わせて、年間約236億円もの医療費節減効果があったことになります。疑義照会には薬剤による被害発生の抑制に加えて、不要な薬剤費・医療費の削減効果も大いに期待されています。

4.疑義照会が簡単ではない理由

疑義照会は薬剤師の重要な業務であるものの、いざ行おうとするとスムーズに進まないことも多々あります。疑義照会が簡単に進まない理由には、以下の2点が挙げられます。

・疑義照会の内容を取捨選択する必要がある

疑義照会では、疑問点や不明点をすべて医師などに確認すればよいという訳ではありません。医療現場で働く薬剤師や医師は通常業務で忙しいため、すべての疑義を確認することは難しいでしょう。

疑義照会を行う際には、薬学的観点から「疑義照会をすべきかどうか」を判断し、選別するところから始める必要があります。本当に必要か判断するスキルが求められるため、特に薬剤師としての経験が少ない方は疑義照会に苦手意識を持つことも少なくありません。

・薬学的疑義照会は薬剤師の経験が問われる

形式的疑義の場合、処方箋に記載されている内容をきちんと確認できれば、経験の少ない方でも早い段階で自己判断できるようになります。

一方、薬学的疑義の場合は処方箋を見ただけでは判断できないことも少なくありません。薬剤師としての経験や知識が求められるため、経験年数の少ない若手薬剤師では薬学的疑義の発見までの調査に時間がかかり、業務効率が低下することもあるでしょう。

5.疑義照会を円滑に進めるための4つのポイント

疑義照会をスムーズに進めるためには、薬剤師としての豊富な知識・経験を身に付けるとともに、医師や患者とのコミュニケーションスキルを高める必要があります。では、疑義照会における医師への問い合わせや患者への質問といった場面では、どのような点に気を付けるとよいのでしょうか。

ここからは、疑義照会を円滑に進めるためのポイント・コツを4つ紹介します。4つのポイントを意識して、医師や患者との良好な関係を損なわない疑義照会を行いましょう。

5-1.親身な対応で患者から同意を得る

「担当医に迷惑がかかるのでは」「時間がかかると困る」といった理由から、疑義照会を嫌がる患者もいます。「自分が何かしてしまったのでは」と不安に感じる患者も少なくありません。患者に疑義照会に協力してもらうためには、患者の立場を考えて親身な対応を心がけることが大切です。

「医師に問い合わせます」といった強い言い回しを避け、質問や相談、お願いといった服薬指導の延長のような形から疑義照会につなげましょう。疑義照会は患者の健康や生命のために行うことも説明し、疑義照会の同意を得ることもポイントです。

5-2.疑義照会を行う前に代替案を準備する

病院やクリニックなどに勤務する医師は多忙であるため、疑義照会を行う際には、可能な限り短い時間で疑義を解決できるよう配慮する必要があります。簡潔な疑義照会を目指す一環として、医師に疑義照会の連絡を行う際には代替案や解決策を準備しましょう。

例えば、妊娠中の患者の処方箋に妊婦には禁忌の医薬品が記載されていて疑義照会を行う場合、代用となる医薬品について医師から尋ねられることがあります。妊娠中でも使用可能な同効薬やその用法をリストアップしておくなど、疑義を解決するために必要な情報(処方変更など)を事前に準備しておきましょう。

5-3.要点を整理してから医師に電話する

代替案の事前準備とともに、処方箋に関する問い合わせ内容について要点を整理してから医師に連絡することも重要です。診療や研究など、多忙な仕事の間を縫って対応してくれる医師に対して、可能な限り疑義照会の連絡に時間をかけないよう配慮しましょう。

疑義照会に慣れていない間は、頭の中だけで要点を整理することは避け、メモなどに要点をまとめてから医師に連絡することをおすすめします。医師から得た情報も要点をまとめたメモに追記できるため、よりスムーズに疑義照会ができるでしょう。

5-4.指摘ではなく相談として問い合わせる

疑義照会は、場合によっては医師のミスを指摘する内容となるケースもあります。医師の処方ミスが疑われるケースでは、問い合わせの仕方によっては医師を怒らせてしまう可能性もあるため注意が必要です。

医師の処方ミスに関する疑義照会を行う場合は、医師との関係性を損ねないよう、「指摘」「意見」「報告」ではなく、「相談」の言い回しや言葉遣いを心がけましょう。処方意図を汲み取りながら「前回は3回であった服用回数が2回へ変更されていますが、このまま処方してもよろしいでしょうか」といったソフトな伝え方が理想的です。

6.疑義照会の記録内容の書き方

疑義照会を終えたら、疑義照会の内容を記録しましょう。処方薬に変更があったかどうかにかかわらず、処方箋の備考欄と患者の薬歴簿の該当ページの両方に、黒色または赤色のペンで記載します。薬局指定の様式がない場合は、他のスタッフが一目で状況を理解できるよう、次のポイントを押さえて記載しましょう。

■疑義照会に関して処方箋や薬歴簿に残す記載事項

  • 疑義照会を行った年月日・時刻・連絡手段(電話、ファクシミリなど)
  • 担当した薬剤師名
  • 回答者(処方医師など)の氏名
  • 疑義照会を行うに至った経緯
  • 疑義の要点(代替となる処方提案、対応策など)
  • 疑義に対する回答の要点
  • 処方の変更内容(用法変更や処方削除・追加) など

【記載例】

○○年○月○日 ○時○分 電話にて照会
担当薬剤師:○○  回答した方の氏名:△△先生
患者の■■のアレルギーにより、●●を削除・▲▲を●●の代用薬として処方(△△先生確認済)

疑義照会は、患者の健康を守るために薬剤師が行う重要な業務です。医師や患者との関係を良好に保てるよう丁寧な対応を意識し、疑義照会につなげる質問から疑義照会の記録・情報共有に向けた運用までの一連の業務を円滑に行いましょう。

7.疑義照会の事例を紹介

ここでは、薬剤師が行った疑義照会内容によって処方ミスが発覚し、実際に処方変更に至った事例を4つ紹介します。

  • 患者の生活状態に合わせた薬が処方されたケース
  • 薬の特性により処方が変更されたケース
  • 投与量の間違いを指摘したケース
  • 併用してはいけない薬を指摘したケース

いざというときに備えて、医師とのやり取りをシミュレーションしておくとよいでしょう。

7-1.患者の生活状態に合わせた薬が処方されたケース

在宅医療を受ける患者の家族から丁寧に情報を聞き取ったことで禁忌事項への該当に気付き、処方が変更されたケースです。患者本人が薬局に来ることができない場合も、家族や代理人に患者の体調や暮らし方を確認するよう心がけると、適切な薬の処方につながります。

【処方された薬剤】

  • ビビアント錠20mg

【患者の状態】

  • 骨粗しょう症を発症
  • ほぼ寝たきり状態
  • 食事もベッドの上

【薬剤の注意事項】

  • 禁忌事項:長期不動状態にある患者には投与しないこと

【疑義照会】

  • 患者の状態を考慮し、活性型ビタミンD3製剤への変更を提案

【変更後の薬剤】

  • エディロールカプセル0.5μg

出典:公益財団法人日本医療機能評価機構「2022年No.6事例2」

7-2.薬の特性により処方が変更されたケース

徐放性製剤に対する粉砕指示への疑義照会により、処方が変更されたケースです。徐放性製剤の他にも、錠剤を粉砕したりカプセルを開封したりすることで薬の効き目や副作用に影響するケースがあるため、注意が必要です。

【処方された薬剤】

  • ベタニス錠25mgを粉砕して処方
  • トビエース錠を粉砕して処方

【薬剤の注意事項】

  • 徐放性製剤に当たるため、薬物動態が変化する分割・粉砕・すり潰しなどは不可

【患者の状態】

  • 嚥下困難

【疑義照会】

  • ベタニス錠25mg・トビエース錠ともに徐放性製剤に当たり、粉砕できないことを説明
  • 即放性のフィルムでコーティングされた同効薬、ベオーバ錠50mgへの変更を提案

【変更後の薬剤】

  • ベオーバ錠50mgを粉砕して処方

出典:公益財団法人日本医療機能評価機構「2022年No.6事例1」

7-3.投与量の間違いを指摘したケース

患者の薬歴・病歴および疾患ごとに異なる薬剤の用法用量を把握していたため、薬剤の処方量と投与目的が一致しないことに気付き、処方が変更されたケースです。

【処方された薬剤】

  • フォシーガ錠5mg:1回1錠・1日1回

【薬剤の注意事項】

  • 2型糖尿病の成人に対しては5mgを1日1回
  • 慢性心不全・慢性腎臓病の成人に対しては10mgを1日1回

【患者の状態】

  • 慢性心不全の治療中

【疑義照会】

  • 付き添いの看護師へ投与目的を確認
  • 医師へ投与量が適正かを確認

【変更後の薬剤】

  • フォシーガ錠10mg:1回1錠・1日1回

出典:公益財団法人日本医療機能評価機構「2022年No.2事例2」

7-4.併用してはいけない薬を指摘したケース

一方の添付文書にしか併用禁忌が記載されていない薬剤の相互作用を、正確に理解していたことにより処方が変更されたケースです。

【処方された薬剤】

  • ミネブロ錠2.5mg

【薬剤の注意事項】

  • セララ錠25mgの併用禁忌薬剤に該当
  • 重大な副作用として高カリウム血症の発現

【患者の状態】

  • セララ錠25mgを継続して服用中

【疑義照会】

  • セララ錠(エプレレノン)がミネブロ錠2.5mgの併用禁忌に当たることを説明

【変更後の薬剤】

  • セララ錠25mgの処方中止
  • ミネブロ錠2.5mgのみを処方

出典:公益財団法人日本医療機能評価機構「2020年No.10事例3」

まとめ

疑義照会とは、処方内容に疑問点や不明点があった際に、薬剤師が医師などに問い合わせる行為であり、薬剤師法でも義務付けられた重要な業務です。キャリアや薬学的知識に基づき、問い合わせる案件を取捨選択する必要があるため、疑義照会に関して悩んでいる方は少なくありません。

疑義照会を円滑に進めるためには、患者や医師の立場を慮った対応を取ることが重要です。「患者に対して親身な対応を心がける」「医師には簡潔に伝える」などのポイントを押さえて疑義照会を行い、記録を残すステップまでスムーズに進められるようになりましょう。

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