薬剤師の転職お役立ちコラム COLUMN

2022/12/16

薬剤師が負う責任とは|事例・調剤過誤を防止するためのポイントも

信頼性の高い専門職として活躍できる薬剤師は、人気の高い職業です。しかし、薬剤師の主な仕事である調剤業務は、非常に責任の重い仕事でもあります。

ミスが発生すると大きな騒動につながることもあるため、薬剤師を目指す場合は、薬剤師が背負う責任や、調剤過誤を防止するポイントを事前に把握しておきましょう。

この記事では、薬剤師が負う責任について解説します。調剤過誤の事例や、調剤過誤を防止するポイントも解説するため、薬剤師が負う責任を知りたい方は参考にしてください。

1. 薬剤師の法的責任

薬剤師は、刑事責任・行政責任・民事責任の3つの大きな法的責任を負っています。

調剤過誤などのミスによって患者さんに健康被害が生じた場合、薬剤師は法的な責任だけでなく、社会的な責任も負わなければなりません。

ここでは、どのような場合に法的責任を追求されるのかに関して、また処罰の具体的な内容を解説します。

1-1. 刑事責任

刑事責任とは、罪を犯した人に対する法律上の処分のことです。刑事責任では主に、薬剤師の国に対する責任が問われます。

たとえば、調剤過誤によって患者さんに重大な健康被害を与えた薬剤師は、業務上過失致死傷罪に問われることが一般的です。以下は業務上過失致死傷罪に関して述べている、刑法の条文です。

刑法第211条 業務上過失致死傷等

業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする

引用:日本薬剤師会「薬局・薬剤師のための医療安全にかかる法的知識の基礎」引用日2022/10/14

その他、薬剤師が守秘義務違反を行った場合、秘密漏示罪に問われる可能性があります。秘密漏示罪に関して述べている刑法の条文は、以下の通りです。

刑法第134条 秘密漏示

医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士、弁護人、公証人又はこれらの職にあった者が、正当な理由がないのに、その業務上取り扱ったことについて知り得た人の秘密を漏らしたときは、6月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。

引用:日本薬剤師会「薬局・薬剤師のための医療安全にかかる法的知識の基礎」引用日2022/10/14

なお、調剤過誤を起こしても患者さんに健康被害がない場合は、業務上過失致死傷罪に問われません。ただし、過去には調剤過誤によって薬剤師に執行猶予つきの禁固刑や罰金が科された事例もあるため、十分に注意しましょう。

出典:日本薬剤師会「薬局・薬剤師のための医療安全にかかる法的知識の基礎」

1-2. 行政責任

行政責任は、厚生労働省に対する責任を追求します。

薬剤の過剰投与などによって重大な事件を引き起こした場合、厚生労働大臣によって薬剤師の免許が取り消されたり、業務停止の命令を受けたりすることがあります。罰金刑以上の刑罰が確定した場合に、このような処分を受けるケースが多い傾向です。

しかし、必ずしも処分が課されるわけではありません。厚生労働省によって必要と判断された場合にのみ、処分が課されます。

過去の判決では、患者さんに重大な被害を与えた場合において、業務停止などの処分を受けることが多くなっています。

1-3. 民事責任

民事責任とは、被害者になった患者さん・病院・薬局などに対する薬剤師の損害賠償責任です。民事責任は「過失または故意」「過失と結果との間の因果関係」「損害の発生」の3条件が揃った場合に発生します。

  • 過失または故意
  • 薬剤師には、専門性の高い知識や経験を用いて「悪い結果を予想する義務」と「予想される悪い結果を回避する義務」があります。過失とは、薬剤師の義務違反を意味する言葉です。

  • 過失と結果との間の因果関係
  • 因果関係とは、ある出来事・行為と結果の間に認められる関係性です。民事責任は、薬剤師の過失と損害との間に因果関係がある場合のみ、発生します。

  • 損害の発生
  • 民事責任で言う「損害」とは、金銭的な被害を意味します。具体的には、調剤過誤によって健康被害が発生した場合の治療費・逸失利益(働けなかった期間にもらえるはずであった収入)などが「損害」にあたります。

たとえば、薬剤師が処方薬の調剤ミスにすぐ気付き、患者さんに連絡したことで服用を防止できた場合、民事責任は問われません。薬剤師が調剤ミスを起こした事実は変わらないものの、「患者さんに金銭的な被害がない場合は法律上の損害賠償責任は発生しない」と考えられています。

出典:日本薬剤師会「薬局・薬剤師のための医療安全にかかる法的知識の基礎」

2. 薬剤師が責任を問われる調剤過誤の例

調剤過誤などの重大なミスを引き起こさないためには、実際にどのような事例が起こりやすいのか、把握することが大切です。事例を把握しておけば、調剤過誤を未然に防ぎやすくなります。

ここでは、薬剤師が責任を問われる調剤過誤の事例に関して、よくある事例を紹介します。

2-1. 数量の誤り

1つ目によくある事例は、数量を誤ってしまうことです。必要以上に薬を摂取してしまうと、患者さんの体調に異変が生じるだけでなく、最悪の場合は死に至るケースもあります。

たとえば、ある薬の調剤量を「0.5mg」としていたものを、誤って「5.0mg」と認識してしまうと、重大な事故につながる可能性があるでしょう。

実際に調剤をする場合は、処方量を複数回に渡って確認することが必須です。余裕があれば他の人にもチェックをしてもらうと、ミスが防ぎやすくなります。

2-2. 薬剤の取り違え

2つ目によくある事例は、処方する薬剤そのものの取り違えです。数量の誤りは大きなミスとなりますが、薬の取り違えも同様、患者さんの体に大きな影響を与えてしまいます。

取り違えは、薬の名称と形状の両方が似ているときに起こります。特に取り違えが起こりやすい例は、「アルマール」と「アマリール」です。

アルマールは血圧を低下させる目的で投与する薬剤である一方、アマリールは糖尿病の治療に用いる薬剤です。アルマールとアマリールを取り違えた場合、最悪のケースでは死に至る危険性もあります。

取り違えを防ぎたい場合も、数量の確認と同様に複数回チェックすることが大切です。

3. 薬局・薬剤師における紛争(責任問題)の類型

薬局・薬剤師と患者さんとの間に発生する紛争は、調剤行為に由来する内容・調剤行為以外に由来する内容に分類できます。さらに、調剤行為に由来する内容は「明らかに薬剤師の過失であるもの」「過失か否かの判断が難しいもの」の2種類に類型化することが可能です。

以下では、薬局・薬剤師と患者さんとの間に発生する紛争の概要を類型別に解説します。

出典:日本薬剤師会「薬局・薬剤師のための医療安全にかかる法的知識の基礎」

3-1. 調剤行為に由来する内容

調剤とは一般的に、医師から出された処方箋を確認した上で医薬品の計量・調整を行い、患者さんに渡すまでの流れを指す言葉です。薬剤師には処方箋を確認し、疑問点がない限り、指示された通りに調剤を行う義務があります。薬剤師が処方通りの調剤を行わなかった場合には「明らかに過失があった」とみなされるため、紛争は免れないでしょう。

一方で、薬剤師には適切に服薬指導を行い、医薬品の効果・副作用の危険性・取り扱いなどについて情報共有する義務もあります。また、お薬手帳の記述・患者さんとやり取りした内容をふまえて疑問点がある場合は疑義照会することも、薬剤師の負う義務です。「どこまで情報提供すればよいか」や「疑義照会はどのレベルまで必要か」の判断には医学知識を要するものの、過失が疑われる状況では、紛争につながりかねません。

過去には、稀に発生する医薬品の副作用を原因とする死亡事故が発生し、患者さんの家族との紛争が起こった裁判例もあります。医師や薬剤師は「頻繁には起こらない副作用による事故は仕方がない」とは考えず、トラブルを回避するための予防対策を取りましょう。

出典:日本薬剤師会「薬局・薬剤師のための医療安全にかかる法的知識の基礎」

3-2. 調剤行為以外に由来する内容

薬剤師の過失によって秘密や個人情報を漏洩した場合には、患者さんや家族との紛争が起こりえます。薬剤師の守秘義務違反が問われる場合の「秘密」とは、以下いずれかの条件を満たすものです。

  • 一般に知られていない事実で患者さん自身が「知られたくない」と感じており、知られないでいることが利益になると客観的に認められる情報
  • 患者さん自身が知っていない内容で、周囲に知られることが不利益になる情報

薬剤師の扱う個人情報関係書類は処方箋・調剤録・薬歴・診療情報提供文書など、多岐にわたります。薬剤師が紛争を防止するためには守秘義務の徹底を心掛けるとともに、個人情報関係書類を適切に扱う配慮が必要です。

その他、薬局内で転倒事故が発生して安全管理体制に関する問題が疑われる状況でも、紛争が起こりえます。薬局の責任者・管理者として従業員の生活を守り、転倒事故などが原因で起こる紛争へのリスクヘッジを行うために、薬剤師賠償責任保険へ加入する方法も検討しましょう。勤務先が薬剤師賠償責任保険に加入していない場合は薬剤師個人で加入し、損害賠償責任へのリスクヘッジを行う方法が一案です。

出典:日本薬剤師会「薬局・薬剤師のための医療安全にかかる法的知識の基礎」

4. 薬剤師が法的責任を問われた事例

薬剤師・医師・薬局が患者さんから法的責任を問われた場合の代表的な解決手段は、「示談」「調停」「裁判やADR(裁判外紛争解決手続)」の3種類です。示談とは、患者さんと薬剤師などが話し合い、双方の歩み寄りによる解決を目指す手段を指します。調停とは簡易裁判所の調停委員を交えて患者さんと薬剤師などが話し合い、解決を図る手段です。調停が不成立に終わった場合は以下の事例のように患者さん側の訴訟により、裁判による解決が図られます。

出典:日本薬剤師会「薬局・薬剤師のための医療安全にかかる法的知識の基礎」

4-1. 医師とともに法的責任を問われた事例

2000年9月、通常の5倍や3倍以上の医薬品を処方された乳児が入院に到った事件では、医師・薬剤師の両方に損害賠償責任が発生しました。

◯事件の概要

  • 生後4週間の乳児に対して医師が通常投与量の5倍以上のマレイン酸クロルフェニラミン、3倍以上のリン酸ジヒドロコデインを処方
  • 薬剤師は処方通りに調剤
  • 出された医薬品を少なくとも2回服用させたことで乳児が呼吸困難・チアノーゼ状態になり、入院
  • 乳児の母親が薬剤師と医師に対し、損害賠償を請求

上記裁判例では薬剤師が医薬品のプロでありつつ、処方箋の内容に疑問を持たなかったことに対する過失が指摘されました。結果として裁判所は医師の処方箋ミスの責任を薬剤師にも取らせ、共同不法行為として損害賠償を命じています。

なお、上記の事件で薬剤師は事前に医師から「乳児には多めに医薬品を処方するため、従ってほしい」と指示されていました。しかし、指示された事実によって「疑義照会を十分に行った」とは言えず、薬剤師の過失が認められています。

出典:日本薬剤師会「薬局・薬剤師のための医療安全にかかる法的知識の基礎」

4-2. 薬局ともに法的責任を問われた事例

調剤過誤が発生した場合、調剤を担当した薬剤師のみではなく管理者や責任者もが、法的責任を問われる可能性があります。たとえば、2011年に発生した以下の調剤過誤事件では、薬局開設者および薬剤師が連帯責任を問われました。

◯事件の概要

  • 90代の女性が頻尿治療薬「バップフォー」錠剤90日分の処方箋を薬局に提出
  • 薬剤師は誤って、血圧降下剤「バソメット」錠剤を調剤
  • 患者さんは服用から41日後に脳梗塞で倒れ、1か月後に死亡
  • 薬局開設者および薬剤師に対し、損害賠償を請求

上記裁判例では明らかに薬剤師の過失があったものの、患者さんの死亡との因果関係については悩ましく、大きな争点になりました。患者さんは高齢者であったため、「既往症のせいで死亡した」とも考えられることが理由です。

今回のケースでは、札幌地裁は結果的に因果関係を認めて薬局開設者および薬剤師に2,500万円の損害賠償を命じたものの、すべての事件で同様の判決が出るとは限りません。

出典:日本薬剤師会「薬局・薬剤師のための医療安全にかかる法的知識の基礎」

5. 調剤過誤を防止するためのポイント

謝罪だけでは済まされない調剤過誤は、患者さんや家族だけでなく、薬剤師自身にとっても最悪の事態を招いてしまう恐れがあります。重大な事件を引き起こさないためには、常日頃から調剤事故などのミスを防止する心がけが必要です。

ここでは、薬剤師が調剤過誤を防止するためのポイントを4つ紹介します。

5-1. 小さな疑問でも疑義照会を行う

患者さんへの調剤ミスを防止するためには、処方箋を過信することは避け、どれほど小さい疑問でも医師に対して疑義照会を行うようにしましょう。

疑義照会を行うと、医師に迷惑をかけてしまうことを心配する方も少なくありません。しかし、この作業が重大な事件を防止することにつながる場合もあります。万が一処方箋の文字が読みにくい場合などは、徹底して疑義照会を行ってください。

5-2. 複数の処方箋には細心の注意を払う

調剤薬局を訪れる患者さんは、複数の処方箋を持参することがあります。また、すでに別の医薬品を服用している可能性もあるでしょう。

このような場合は、薬の飲み合わせやそれぞれの成分が重複していないかなどについて、チェックすることが必要です。

お薬手帳を持参する患者さんであったとしても安心するのではなく、必ず個別のヒアリングを行いましょう。過去にお薬手帳を持参しなかったことがあれば、一部の薬歴データは記載されていない可能性があります。

5-3. いつも通りの処方という思い込みを排除する

ご年配の患者さんの場合は持病を抱えていることが多いため、「処方内容はいつもと同じ」というケースが多く見受けられます。しかし、たとえいつも通りであったとしても、本当に処方内容が正しいかどうか疑う習慣をつけましょう。

確認作業を習慣化することは、調剤過誤などのミスを防ぐことに効果を発揮します。

5-4. 患者さんとのコミュニケーションを大切にする

処方箋に記載された薬は、患者さんの症状を和らげるために医師が必要と判断したものです。しかし、調剤業務においては薬剤師も患者さんとコミュニケーションを取ることで、処方箋の矛盾点や疑問点を発見できる場合があります。

処方箋には飲み薬が記載されているのにもかかわらず、患者さんが「今日は塗り薬をもらいに来た」と話すこともあるでしょう。患者さんが来院した目的や症状、ライフスタイルなどについて質問し、処方箋との矛盾がないか確認することが重要です。

まとめ

今回は、薬剤師が負う責任や、調剤過誤の事例と調剤過誤を防止するポイントなどを解説しました。

調剤過誤などのミスを引き起こした場合、最悪のケースでは患者さんを死亡させてしまう危険性があります。ミスを起こさないためには、ミスを防ぐ環境づくりが必要です。個人レベルで確認作業を強化したり、勤務する職場の同僚とダブルチェックを徹底したりする必要があります。

ミスを100%防ぐことは難しいものの、防止するためのポイントを把握していれば、ミスの発生を防ぎやすくなります。薬剤師を目指す場合は、今回の記事で紹介した内容を実践して信頼される薬剤師を目指しましょう。

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